CALL NO ONE DESTINY

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CALL NO ONE DESTINY

発売日: 2026/07/19 | 著者: 朝香トオル | イラスト: アスナショウコ | サークル: 夜明け前に | 161P

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蓮

これだ、と直感した。オメガバースという枠組みを超えて、関係性の本質を問いかける物語の予感がする。

魔力を持たぬ宮廷魔術師——制度と個人の葛藤が織りなす政治劇

本作の舞台は、〈金の国〉と呼ばれるアーロム帝国。金の採掘で繁栄する大国であり、オメガバース世界特有の社会的制度が色濃く反映されている。主人公エルヴィスはオメガでありながら魔力を持たず、科学者兼医者としての知識を認められて宮廷魔術師という異例の地位を得ている。この設定自体がすでに興味深い。一般的なオメガバース作品では、オメガは魔力や能力において劣ると描かれることが多いが、本作はそれを逆転させ、知的価値で社会に認められた稀有な存在を提示している。

彼の番であるアルファのオーエンは、王家と血縁はないが国王の乳兄弟として育ち、現在は近衛兵(近衛小隊)として王に仕える。二人は16歳の頃に番になっており、あらすじには「可もなく不可もなくといった関係」とある。この表現がむしろ気になる。制度によって結ばれた番が、果たして本当に「可もなく不可もなく」で済むのか。そこに潜む複雑な感情や距離感が、後の展開でどのように変容していくのか——文学的には、この「平坦な関係」の裏にどれほどの伏線が仕込まれているのか、という点が最も注視すべき構造美だ。

物語の起爆剤となるのは、国王が新たに迎えたオメガの側室が隣国の諜報員であるという衝撃的事実。エルヴィスとオーエンは国家の危機に際し、共に調査し戦争を阻止しようと動き出す。この展開は、単なるロマンスに留まらない政治サスペンスとしての側面を強く持つ。オメガバースの枠組みを、個人の運命と国家の命運を重ね合わせるための装置として巧みに用いている点に、作者・朝香トオル氏の構成力の高さを感じずにはいられない。

蓮

「可もなく不可もなく」——この言葉が後にどれほどの意味を帯びるのか、想像するだけでページを繰る手が止まらなくなる。

対照的な二人が織りなす、静寂と動乱のコントラスト

エルヴィスは26歳。オメガでありながら研究者としての矜持を持ち、魔力に頼らない科学と医学の知識で地位を築いた知性派だ。一方のオーエンは24歳と年下でありながら、近衛兵として武の道を歩むアルファ。年齢差はあるが立場は対等に近く、むしろエルヴィスの方が宮廷魔術師として格上とも言える。このパワーバランスの逆転が、オメガバース作品にありがちな「庇護されるオメガ」像を払拭している。特筆すべきは、エルヴィスが王位継承権を持たないものの王族である点だ。血筋と能力、その両方を背負う彼の内面には、どのような葛藤が渦巻いているのか。

対するオーエンは、国王の乳兄弟という出自から、忠誠心と使命感を強く持つ人物であると推測できる。16歳の若さで番になり、その後8年間をエルヴィスと共に過ごしてきた。関係性が「可もなく不可もなく」と表現される背景には、お互いを理解しすぎてしまった故の倦怠か、あるいは制度としての番に割り切った諦念があるのか。あらすじだけでは判断できないが、側室事件を機に二人の間に生じる新たな緊張関係こそ、物語の核となるだろう。

隣国の諜報員という脅威に直面した時、理性で行動するエルヴィスと、本能で動くオーエン。その対照的な姿勢が、番としての絆を再定義する契機になるのではないか。戦争を阻止するという共通目標の中で、お互いの価値観や能力を再認識し、これまで以上に深い信頼関係へと昇華していく——そんなドラマチックな展開を期待させる。研究者と武人、知識と力、オメガとアルファ。対立軸が多層的に張り巡らされた構造は、読む者に知的な興奮をもたらす。

蓮

16歳で番になった二人の、その後8年——この空白の時間にどれだけの物語が沈んでいるのか。それを暴き出す装置としての隣国諜報事件、実に秀逸だ。

「可もなく不可もなく」——その言葉が孕む静かなる伏線

国の制度で選出された番であるアルファのオーエンとは可もなく不可もなくといった関係を築いていた。

この一文は、一見すると淡白な説明に過ぎない。しかし、文学作品において「関係性」をこれほど簡潔でありながら余白の多い言葉で表現できるだろうか。あらすじの冒頭に置かれたこの文章は、読者に「なぜ可もなく不可もなくなのか」「その関係がどのように変化するのか」という問いを投げかけている。制度によって強制された番という関係性において、個人の感情はどこまで自由であり得るのか。作者は読者に、この問いを潜ませながら物語を展開させる技巧を持つ。

さらに注目すべきは、この一文が「可もなく不可もなく」という状態を、エルヴィスの視点で語っている点だ。おそらく彼自身がそう認識しているということであり、その認識が後に覆される可能性を暗示している。オーエンが同じ関係をどう捉えているのか——その非対称性こそが、物語に深みを与える鍵となる。表面的な平穏の下で燻る感情の火種、それが国家の危機という外的要因によって噴出する瞬間を、読者は待ち望むことになる。

この引用が持つ力は、読者に「読ませる」のではなく「考えさせる」点にある。テキストの行間を読む喜び、伏線を発見する快楽——そうした文学本来の楽しみ方を提供してくれる一文だ。オメガバースというジャンルでありながら、ここには安易な運命論や激情描写はない。あるのは、制度と個人の間に生まれた静かな葛藤だけだ。この抑制の効いた語り口こそ、本作のスタイルを象徴している。

蓮

研究資料として読み始めたが、これはもう研究どころではない。オメガバースというジャンルの可能性を拡張する、真摯な物語に出会えた。この興奮を、どうか多くの読者と共有したい。僕はこの作品の、制度的な運命を個人の意志で書き換えようとする試みに、最大限の敬意を捧げる。

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