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執着と距離感の倒錯——幸福なストーカーの構造分析
本作は、大学生の弥生が歳の離れた幼なじみ・紘太郎に寄せる、一途でありながら明らかに個人の領域を侵犯する愛情を描いたBL作品です。弥生は紘太郎の仕事が終わる時間を狙い、部屋の前で帰りを待つことを日課としています。
その行動のさらに深層には、仕掛けた盗聴器から紘太郎の声を聞きながら自身を慰めるという、歪極まりない儀式が存在します。「別に恋人になれなくてもいい」と諦念を口にしながらも、「どこにも行かないで」と縋る矛盾。この心理の振幅こそが弥生というキャラクターの行動原理を複雑にしていると言えるでしょう。
合本版には描き下ろし10ページが収録され、その後の初めての関係が描かれるとのこと。歪な愛情表現がどのような変容を遂げるのか、あるいは変容を拒むのか。構造的な視点からも大きな注目点です。
「待つ」という行為の倒錯性
弥生の日課は、紘太郎の帰宅時間に部屋の前で待機することです。一見すると健気な行為に見えますが、同時に盗聴器を仕掛けている事実が、この「待つ」という受動的な行為に能動的な介入の意味を付与しています。待つことそのものが支配の手段へと変容する過程は、力関係の逆転を暗示していて興味深い。
「嗜めるが許す」という優しさの構造
紘太郎は弥生のストーカーじみた行動を口では嗜めつつも、結局は許容してしまう優しさを持っています。この「嗜める→許す」という反応の一貫性が、弥生の執着をむしろ増幅させる要因として機能している点は、関係性の力学を分析する上で見逃せません。叱責と赦しのサイクルが生む快楽の構造は、ある種の共依存関係を想起させます。
