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すべてを失った男が、和服美人の住む世界に転がり込む
所持金3680円。仕事も寝る場所もなく、ヤケ酒の果てに路上で泥酔していた男が目を覚ますと、そこは見知らぬ布団のなか。しかも全裸で、同じく裸の和服美人が隣に眠っている。昨晩の記憶はない。ただ、勢いでその男――清澄伊織を襲ってしまったらしい。さらに高価な壺まで割った。その償いとして、住み込みで働くことになる。
冒頭からこれだけの情報量を詰め込んでくる時点で、この作品は「きっかけの暴力」を理解している。石村航の転落は徹底的で、ヒモだった過去も相まって、彼にはもう逃げ場がない。一方の伊織は、和服美人で茶道家。静かな生活のなかに、突然の闖入者を受け入れることになる。
「待てができない」というタイトルが示す通り、航はきっと我慢ができない男なのだろう。欲も、感情も、衝動も。そのすべてが、伊織の前でどう暴発するのか。住み込みという閉じた空間で、ふたりの関係がどう転がっていくのか。……これはもう、見届けるしかない。
キャラクターの魅力と関係性
石村航は、ヒモだった過去を持つ男。つまり、誰かに依存して生きてきた。それが婚活を理由に追い出され、一文無しのどん底。そんな彼が、全裸で目覚めた先にいたのが清澄伊織。和服美人の茶道家で、昨晩の航の暴挙を許し、壺の償いとして住み込みを提案している。この時点で、伊織の懐の深さか、あるいは何か別の思惑か。どちらにせよ、航にとっては救いの手だ。
ただし、この関係性はあくまで「償い」から始まっている。航は加害者であり、伊織は被害者。その非対称な立場が、住み込み生活中にどう変化していくのか。特に「ある夜、伊織が一人でしているところに遭遇」という場面は、このふたりの力関係が大きく揺らぐターニングポイントになりそうだ。航はそこで伊織の色香にあてられ、欲を抑えきれなくなる。つまり、航はまた「待てができない」行動に出る。償いの関係が、欲望の関係へと塗り替わる瞬間。……その先に、ふたりがどんな場所に辿り着くのか、気になって仕方がない。
「勢いで襲ってしまった」から始まる、償いと欲望の物語
この一文が、航と伊織の関係をすべて決定づけている。記憶がないままに相手を襲った。その事実だけが先に立って、航は負い目を背負う。しかし、これはあくまで「らしい」という間接的な伝聞だ。航自身に記憶がないからこそ、伊織の語る「昨晩の出来事」が唯一の情報源になる。つまり、航は最初から伊織の言葉を信じるしかない立場に置かれている。
そして、その負い目が住み込みという形で固定される。同じ屋根の下、全裸で目覚めた翌朝から始まる共同生活。この出発点が、ふたりの関係性の重さを象徴している。償いから始まった関係が、やがて欲望へと変わる。その変化の過程で、航がどう「待てない」男として暴走するのか。伊織がどう受け止めるのか。……この一文から、すべての歯車が回り始めた。
