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憎しみから始まる、命を分け合う愛の物語
『氷の皇帝は敗国の姫を還さない』。タイトルからして強烈ですが、それ以上に衝撃的なのは、この物語が「憎悪」から始まること。国を焼かれ、戦利品として差し出された姫イレーネは、自分から寝衣の紐をほどき、「一生、憎みます」と宣言します。ところが、そこから彼女の感情は少しずつ揺れ動いていくのです。
この作品の核となるのが、ヴェスティア王家に伝わる「血の力」。姫の血は大地を保つ代わりに、使うたびに寿命が削られるという設定が、もう切ない。母は二十九、姉は二十四で亡くなり、自身の残りも五年と悟っているイレーネ。そんな彼女の命の危機を、氷帝アルヴィスは知っていて、ある「術式」を用意していたのです。
「銀の血の代償は、これを引き受ける者へ移すことを得る」「引き受けし者は、血の主に触れるたび、その分を負う」。つまり、彼は彼女に触れるたびに、自分の寿命を削って彼女を生かしている。三十歳の男の脈が、五十過ぎのものになっていく。この事実を知ったときのイレーネの衝撃を思うと、胸が締め付けられます。
そして何より、彼の言葉が刺さる。「憎め。それでいい。憎んで、私より長く生きろ」。愛してほしいとは言わず、憎んで生き延びろと言う。この健気さというか、不器用すぎる優しさに、わたしはもうノックアウトです。憎むための材料が手から零れていく感触を、文章の行間からたっぷり味わえる、濃密な一冊になっています。
氷帝と敗国の姫、不器用な二人の距離
まずヒロインのイレーネは、決して弱々しいだけの姫ではありません。国を焼かれた夜、自分から寝衣の紐をほどいて「一生、憎みます」と言い放つ胆力。彼女はただの被害者ではなく、自分の運命を引き受けた強い女性です。そして、憎むための材料を一つずつ零れていく自分に戸惑う、繊細さも持っています。
対するアルヴィスは、氷帝と呼ばれるだけあって、感情を表に出さない男。しかし、彼の行動はすべてイレーネを生かすためのもの。彼女に触れるたびに寿命が削られると知りながら、それでも彼女を「還さない」。戦利品という名の庇護のもと、彼女を守り続けているのです。
彼が書斎に残した術式のメモには、なんと「概算、一夜につき、およそ一日」と記され、日付は国が落ちる三月前。つまり、彼は最初からこの代償を引き受けるつもりだった。この周到さと自己犠牲の精神、そして彼女への執着。この男、全方向から見て「沼」です。
さらに、この作品は「濡れ場5場面」と銘打たれ、憎悪から始まり命を分かち合う夜までが濃密に描かれているそう。彼に触れられるたび、自分が生きるために彼の命が削られていく。その罪悪感と快楽の狭間で揺れるイレーネの心情を思うと、もうたまらない。純粋な愛ではなく、命と引き換えの触れ合いだからこそ、一瞬一瞬が切なく輝くのでしょう。
Q. イレーネの残りの寿命はどのくらい?
A. ヴェスティア王家の姫は、血の力を使うたびに寿命が削られる宿命にあります。母は二十九歳、姉は二十四歳で亡くなっており、イレーネ自身も「残りは五年」と自覚しています。しかし、祭壇を封じられた後は体が軽くなり、大地も保たれている状態です。彼女の命は、アルヴィスが寿命を分け与えることで支えられているのです。
Q. アルヴィスはいつから代償を知っていた?
A. 書斎に残された術式のメモには、「概算、一夜につき、およそ一日」と書かれており、日付はイレーネの国が落ちる三月前のものです。つまり、アルヴィスは国を攻める前から、彼女の血の秘密と代償について把握し、その上で彼女を手に入れることを決めていたことになります。彼の執着は、最初から計算されたものだったのです。
Q. この作品の読みどころは?
A. タイトルにもある「朝まで奥に注がれながら泣いた話」というフレーズが示す通り、命を削りながら彼女を生かそうとする皇帝と、そんな彼の想いを知ってしまった姫の、切なくも濃密な夜の描写です。憎悪から始まった関係が、命を分かち合うことでどのように変化していくのか。五百年前の姫が遺した手記の「一行」も、物語の鍵を握っています。
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