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静かな夜に炙り出される、三年分の視線
雷雨で花火大会が中止になり、湿気で抜けなくなった火薬入りの筒の見張りを、河川敷の資材小屋で朝まで二人きりですることになった――。そんな導入から始まる本作は、TL小説ならではの「閉じ込め」と「時間の停滞」を存分に活かした構成になっています。
ヒロインの相良ことはは観光協会の職員で、花火大会の事務局を三年前から担当。対する戸倉鉄雄は煙火店の玉屋で、190cmの巨体に現場では誰彼構わず怒鳴りつける強面。この二人が、雨上がりの夜明けまで資材小屋に二人きり。もう、何が起きてもおかしくない状況なのがおわかりいただけるでしょうか。
特筆すべきは、鉄雄の「声が大きいのは耳が遠いから」という設定です。爆音で右耳の聴力を失った彼は、そのせいで声が大きく、誤解を解く気もない。だからこそ三年間、ことはは彼に名前を呼ばれたことが一度もないのです。この「名前を呼ばれない」という距離感が、後の「三年、あんただけ見てた」という告白の重みを何倍にもしているんですね。
体格差が生む、抗えない空気
ことはは149cm、鉄雄は190cm。41cmの体格差は、資材小屋という密閉空間ではもう、圧迫感というより「逃げ場のなさ」そのものです。彼女が「声の大きい相手が苦手で、いつも半歩下がって話す」という設定も、この身長差と相まって、鉄雄の存在感がより際立つ構造になっています。
鉄雄は十八歳から十七年この仕事をしている職人。現場を知り尽くした男が、雨の日は彼女の靴を見て桟敷の配置を決めていた、というエピソードには思わず息を呑みました。仕事の隙間で、誰にも気づかれないように彼女を「見ていた」――その執着の密度が、もう半端じゃないんです。
「伸ばしかけた手をそのまま自分の膝の上で握り込んだ男」という描写も秀逸です。告白したのに、自分からは触れない。その不器用さに、ことはのほうから覆いかぶさる流れが自然すぎて、もう、読んでいてこちらまで息が詰まりました。
「三年、あんただけ見てた」――沈黙の裏側にあるもの
この台詞が持つ力は、その「三年間」の重みにあります。ことはは三年前から事務局を担当し、鉄雄はその間ずっと彼女を見ていた。でも、名前を呼んだことは一度もない。現場で怒鳴ること以外、彼は彼女に何もしてこなかったんです。
補聴器を外して見せるという行為は、彼が初めて「弱さ」を見せた瞬間です。強面で通してきた男が、耳が遠いこと、だから声が大きいことを白状する。その脆さを見せた直後に「三年、あんただけ見てた」と告白する流れは、もう、読者を確実に落としにかかっています。
この一言がなぜ刺さるのか。それは、この男が三年間、何も言わずにただ見ていただけだからです。手を伸ばさず、声をかけず、仕事の記録という「正当な理由」の中に彼女を収め続けた。その忍耐と執着のバランスが、TL読者の心をがっちり掴むのだと思います。
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