📝 DLsite TL小説
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「乾くまで」が延びていく裏打ち場で、七年ぶんの添え状が軸になる
本作は、郷土資料室の嘱託職員・桑名ちひろ(29歳)と、古糊で紙を裏打ちする表具師・権藤慎(40歳)のあいだで進むTL小説です。ちひろは祖母が遺した手紙の束を軸に仕立ててもらうため、七年つきあいのある裏打ち場へ持ち込みます。慎は「糊が生きているうちは動かせない」と言い、乾きの見立てを器具ではなく指の腹だけで決める人。板場に張った紙は乾き切るまで動かせず、次の紙を貼り足しては、動かせない日が先へ延ばされていきます。
この作品を他と分けるのは、二人の距離が「仕事の依頼」から始まっている点です。ちひろは注文書に必ず手書きの添え状をつけるのが癖で、慎はその七年ぶんの添え状を一枚残らず裏打ちして軸に仕立ててあります。祝いの言葉も、雨の日の言い訳も、全部。手紙という私的なものが、表具という職人の仕事を経て一つの軸に収まる——その構図が、そのまま二人のあいだに積もった時間の重さとして置かれています。
指の腹で決まる「まだ生きている」と、延び続ける日
慎の仕事ぶりは、糊の状態を指で押して見極めるという一点に集約されています。皺を一本ずつ追い出すための指はひとところに置かれたまま動かず、感覚がそこへ集まってしまう——あらすじでは、板場の前でも糊の桶の脇でも、毎晩そうなることが示されます。乾き切った朝、慎は鍵なんて掛けたことはないと言って先に戸を開けて外へ出る。そしてちひろは軸を桐箱へ納め、空いた裏打ち台に、今朝書いたばかりの一枚を伏せて置く。冒頭と最後が「紙を伏せて置く」という同じ動作で挟まれているところに、この話の重心があります。
年上の職人と、七年通ってきた依頼主。立場の差はあっても、あらすじで描かれるのは慎の側の一方的な押しつけではなく、ちひろが最後に自分から一枚を置くという選択です。乾きを待つ時間がそのまま二人の時間になり、待たされているのか、待っているのかが曖昧になっていく。そういう読み味を求める人に向いています。全59ページ、R18作品で、登場するのは18歳以上の成人のみと明記されています。
こんな人に向いているか
- 仕事の依頼や契約から始まる関係に、時間をかけて積もる執着を読みたい人
- 年上の職人と、長く通ってきた相手という立場の差を味わいたい人
- 直接的な言葉より、指や糊といった手触りの描写から熱を拾いたい人
学園ものや明るい恋愛劇ではなく、静かな場でゆっくり距離が縮まる話を探している人ほど、手に取りやすい作品です。あらすじの時点で、手紙・軸・裏打ちという道具立てが最後まで一貫して使われており、その分だけ二人の関係が「物」を通して語られる構成になっています。
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