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新人の頃に私を仕込んだ二十歳上の元校正者の家を十年ぶりに訪ねたら、『もう先輩でも部下でもない』と書斎の机に座らされて何度も奥をイかされ孕まされた話

発売日: 2026/08/15 | 著者: 片桐 いく | サークル: かいけつポロリ | 86P

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桃香

タイトルからして……もうね、この一行だけで心臓掴まれたのよね。「もう先輩でも部下でもない」って、十年越しの執着が全部詰まってる。

十年、赤を入れ続けた男の辞書——「線」が消える瞬間の背徳感

この作品の衝撃は、まずタイトルにある。新人の頃に仕込んだ元校正者の家を十年ぶりに訪ねたら、机に座らされて孕まされた——という、あまりにも直球な要約。でも、あらすじを読むと、その直球の裏にどれだけ繊細な時間が積み重なっていたのかがわかる。ふゆ(32歳)は地方紙の記者で、22歳の春に校閲部で半年だけ樋口修一郎(52歳)に指導を受けた。樋口はその年のうちに退社し、以後は外注として十年間、ふゆの署名記事のゲラに赤を入れ続けていたのだ。

顔を合わせないまま、届くのは筆跡と直しの癖だけ。血縁も姻戚関係もない、ただの元先輩と元部下。この「ただの」という距離感が、実は最も重い。樋口がこの春で校正の仕事を畳んだことで、ふゆのゲラに赤が入らなくなる。つまり、十年間引かれていた線が、突然消える。その線の正体が何だったのか——ふゆが気づくのは、廃業したという事実を聞いたときだ。「線を引いていた理由がもう無い」という言葉が、そのまま関係性の転換点になる。

桃香

「使われなかった辞書を口実に訪ねる」って、もうね……十年返せなかったものが、彼女の中にずっとあったってことでしょう。わかりみが深すぎて震える。

言葉を選びすぎる女と、線を一度も踏み越えなかった男

灰谷ふゆは「言葉を選びすぎて言いそびれる癖がある」という。記者という職業でありながら、言いたいことを飲み込んでしまう。そんな彼女が、十年ぶりに樋口の家を訪ねる口実にしたのは、樋口が辞めた夜に「持っていけ」と渡された辞書。それを十年返せなかった——これは単なる忘れ物ではなく、彼女の中でずっと引っかかっていた何かの象徴だろう。返せば関係が終わる気がして、返せなかったのかもしれない。

樋口は52歳の独身男性。在職中は部下との線を一度も踏み越えなかったと明記されている。半年間、何ひとつ起きなかった。そして退社後も、外注としての校正という「仕事」の関係だけを十年間守り続けた。その一線を守り続けた男が、廃業を機に「もう先輩でも部下でもない」と言い放つ。この言葉の重みは、守り続けたからこそ生まれる。踏み越えなかった事実が、今度は逆方向に作用して、すべての歯止めを外すのだ。

書斎に通され、机を埋めていたゲラの束を二人で下ろしていく途中で告げられるその一言。仕事の痕跡を片付けながら、関係の終わりと始まりが同時にやってくる。この状況設定だけで、もう十分に背徳的で、甘くて、苦しい。

桃香

「台詞は少なく、そのぶん手が長い」って……校正の手が、そのまま違う場所に使われるわけでしょ。もう想像しただけで息が苦しいんだけど。

見どころ——赤が入らなくなった夜、その机の上で何が始まるのか

  • 「校正の作法」がそのまま「手の作法」になる:読みどころにある「ここは、直さない」という台詞が、紙の上から体へ、そしてもう一度紙の上へ返ってくるという流れ。校正者としての視線が、そのまま相手の体を見つめる視線に転換していく様子が、この作品の大きな魅力。言葉ではなく手で示す男の態度が、いっそ官能的。
  • 柱時計の音も届かない書斎の密室性:雨の音と、紙の音と、この人の呼吸だけ。外部の時間から切り離された空間で、十年分の距離が一気に縮まっていく。台詞が少ないぶん、視線や指先、紙の擦れる音が際立つ構成になっているのだろう。
  • 「起きなかったこと」が重さになる構造:半年の同僚期間には何ひとつ起きなかった。その事実が、この十年の重さになっている。何もなかったからこそ、積もったものがある。この「なかったこと」の描写が、きっと読者の心を抉る。

こんな人におすすめ

  • ✅ 歳の差があり、なおかつ「仕事の関係」から始まる恋愛に抗えない人
  • ✅ 十年単位で引きずる執着や、言葉にされない想いを丁寧に読むのが好きな人
  • ✅ 台詞が少なく、仕草や視線で語るタイプの攻めが好みの人
桃香

ねえ、この作品ね……ただの歳の差TLじゃないのよ。十年間、赤を入れ続けた男が「廃業した」って、つまり「もうあなたの文章を見る理由が無い」って宣言するわけでしょ。それでいて、机の上で受け取らせるんだから。言葉を選びすぎるふゆが、どんな言葉を最後に紡ぐのか——もう、読む前からぞくぞくするわ。これはね、静かに、でも確実に、心臓を掴まれるタイプの作品よ。
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