🎧 らぶカル TL/乙女ボイス
あの頃の「お兄ちゃん」が、今夜はひとりの男として――
浮気された傷を抱えて飲みに出た夜、繁華街で声を掛けられる。それは何年も会っていなかった幼馴染のお兄ちゃん、野海鴻紀。下級生の証だった黄色い帽子から付けられた「ピヨ」という呼び名に足を止めてしまう――この再会の運命感が、もう良いんです。懐かしさと、ほろ苦い初恋の残り香が、一夜の「火遊び」へと誘われる流れが、現実離れしていてなお体温を感じさせるんですよね。
鴻紀がバーテンダーとして働くクラブで、地元の話や近況、元彼の愚痴を話すうちに泥酔してしまうヒロイン。そんな彼女を慰めるように差し出されたタブレット。「酒クズするより『イイ事』、あるんだけど」――この台詞の温度感が絶妙で、無理やりじゃない、でも確かに堕としに来ている。あの頃とは違う可愛がり方で、体の奥の奥まで溺愛される一夜が約束されているんです。
大人になった「意地悪なお兄ちゃん」の、変わらない視線
野海鴻紀、27歳。182cmのバーテンダーで、落ち着いた大人のテンションと飄々とした物言い。からかい好きなのに時々見せるクシャっとした笑顔がギャップでモテる――この「ちょっと意地悪」な部分が、幼少期から一貫しているのがポイントなんですよね。面倒を見たり毎朝一緒に登校していた頃から、あなたをからかって怒ったり泣いたりする顔が好きだった。その無自覚な嗜好が、今も変わっていないというのが……もう、この執着の根深さに震えます。
女遊びはするのにワンワンツーが基本で、決まった相手は作らない鴻紀。その理由が「お前は昔から可愛くって」という言葉に集約されていくんですね。4章でこぼされたその一言が、どれだけの年月を経てきたかと思うと……。久し振りに再会した幼馴染が、実はずっと自分のことを想っていた。この「両想いセックス」に至るまでの焦らし方が、また堪らないんですよね。「言えよ。『俺の事が好きです』『元カレの事は忘れました』『俺と両想いセックスしたいです』ってさ……」――この言葉責めは、ただの意地悪じゃなくて、返事を待つ不安と執着が滲んでいて。
「ピヨ」――その呼び名が持つ、唯一無二の重み
この一言で全てが始まるんです。下級生の証である黄色い帽子。ただそれだけの理由で付けられた呼び名が、何年経っても彼の口から出てくる。無視して駅への道を急ごうとした足を止めさせてしまう、唯一無二の懐かしい呼び名――これがもう、この作品の鍵なんですよね。名前で呼ばれることの特別感って、大人になると薄れがちだけど、幼い頃のあだ名で呼ばれた瞬間に、時間が巻き戻るような感覚になる。その「あの頃」の自分に戻れる安心感と、目の前にいる男はもうあの頃の「お兄ちゃん」ではないという背徳感の狭間で、ヒロインは揺れるんです。
そして鴻紀にとっても、この「ピヨ」という呼び名は、ずっと心の奥に仕舞っておいた大切な記憶の鍵なのでしょう。何年も疎遠になっていたのに、繁華街で見つけた瞬間に声を掛けずにはいられなかった。その衝動が、幼い頃から変わらない「からかって怒ったり泣いたりする顔が好き」という感情に繋がっていると思うと、この再会は偶然ではなく、必然だったのだと感じられますよね。あの頃と変わらない呼び名で始まる、一夜限りの――いえ、きっと一夜では終わらない、二人だけの物語です。