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「固定が終わるまで戸は開けない」から始まる、暗幕の向こうの五年間
本作は、小学校の理科支援員をしている草野なぎさ(26歳)と、封入と固定だけを請ける標本師・釘宮昴(34歳)のあいだに生まれる関係を描いたTL小説です。なぎさは、子どもたちが校庭や川原で拾ってきた物を捨てられず、五年という歳月をかけて標本製作室へ持ち込み続けてきました。昴は、そんな彼女の依頼を受けて、翅の一枚も歪ませずに時間を止めてしまう人。物語は、蝶の標本を頼みに寄ったなぎさが、薬品と樟脳の匂う暗い作業室で「固定が終わるまで戸は開けない」と告げられるところから動き出します。
この作品を他と分けているのは、なぎさと昴のあいだに流れる時間の長さと、その時間が物として積み重なっていく構図です。樹脂は光と外気で濁るため、固まるまでは暗幕を上げず戸も開けない。それは昴が決めた手順であり、彼はその手順を守りながら、一体が固まれば次、次が固まればまた次と、工程を足して終わりを先へ延ばしていきます。閉じられた部屋の中で、見えない代わりに指と息の位置ばかりが分かるようになる、という描写が、この作品の空気をよく表しています。
引き出しに並ぶ、日付と名前のついた「控え」
物語の軸となるのは、五年のあいだに持ち込んだ物が一つ残らず標本になって並んでいる引き出しの存在です。子どもに返したはずの物まで、控えの一体が作られており、ラベルには日付となぎさの名前が記されている。この発見は、単なる驚きではなく、昴がどれだけの時間をかけて彼女の痕跡を集めていたかを示す場面として置かれています。
赤い灯すら落ちる時間があり、そのあと灯が戻る一瞬に、硝子の面に映った自分が見えてしまう——という描写も、暗がりの中での出来事を静かに際立たせます。作業台の縁でも、引き出しの前に立ったままでも、毎晩。場所を変えながら続いていく時間そのものが、この作品の中心にあると言えるでしょう。
最後の樹脂が固まった朝、彼女が選んだこと
最後の樹脂が固まった朝、昴は暗幕を巻き上げて戸を開けます。光の中を通り過ぎて引き出しの前に戻ったなぎさは、空いていた最後の一段に、今朝自分自身が拾った物をひとつ置き、指で押して収めます。五年間の集積が完成したところで、彼女自身がその列に加わる側へ回る。この結びの構図が、本作のタイトルが示す関係性をそのまま体現しています。
ジャンルとしては、執着・溺愛・年上攻めといった要素が公開情報に明記されています。目隠しや焦らしといった状況も、暗幕の作業室という舞台設定と結びついて描かれるようです。全62ページのR18作品で、登場人物はどちらも18歳を過ぎた成人です。静かな執着と、時間をかけて積み上がっていく関係性を読みたい方に向いています。
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