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「練習」という名の口実が生む、じれったい距離感
人気俳優と新人美容師。世間には秘密の同居生活中という、いわゆる身内視点の関係性から始まる本作。表向きの華やかなイメージと、家に帰れば高校時代の冴えない姿を知っている相手と過ごすギャップが、まず効いている。あらすじの時点で、この二人にしか存在しない空気感が確約されているのだ。
物語の発端は、ドラマのキスシーン練習相手の要請。「練習」という安全な言葉で始まった行為が、徐々にエスカレートしていく様子が描かれる。キスの練習のはずが、なぜか止まらない。その理由を考え始めた時点で、尋人の感情はもう戻れない場所に足を踏み入れているのだろう。
「匡昭ってこんな顔するんだ」「甘えるみたいな声、初めて聞いた」。この二つの独白が、この作品の全てを語っている。十五年近く知っている相手でも、知らない顔がある。その発見が、友人関係を別の感情へと塗り替えていく。関係性の変化を、身体的な距離の近さと共に描く構成が、実に心臓に悪い。
寡黙クールとウブかわ、正反対な二人の力学
匡昭は「寡黙クールな人気俳優」。ドラマのキスシーン練習をわざわざ同居人の尋人に頼む時点で、彼が本当にクールなだけの人間ではないことが透けて見える。周囲にいくらでも相手がいるはずなのに、高校時代から知る尋人を選んだ理由。それは単なる「気の置けない友人」だから、とは別の意味に読めてしまう。
対する尋人は「ウブかわ新人美容師」。世間的には超有名人になった匡昭の、冴えなかった過去を知る数少ない存在。立場の逆転とも言える関係の中で、彼がどう距離を測るのか。あらすじの「キスだけのはずが、さらにエスカレートしていく行為にドキドキが止まらずにいて」という記述から、彼が流されながらも確実に自覚していく過程が想像できる。
そして、この二人の関係性の根底には「高校時代からの友人」という揺るがない土台がある。それが、軽い関係には絶対にならない重みを生んでいる。身体だけの関係に堕ちたら終わり、という緊張感が、画面の向こうからひしひしと伝わってくる。
「初めて聞いた」が告げる、関係の転換点
この言葉は、尋人の認識が「友人」から「異性」へと切り替わった瞬間を如実に示している。十五年近く知っている相手の、知らない表情。知らない声。その発見がもたらす衝撃は、恋愛の入り口としては十分すぎるほどに強烈だ。
特に「甘えるみたいな声」という表現が絶妙である。相手が自分にだけ見せる弱さや素顔に気づいた瞬間、友人関係はもう純粋ではいられない。キスシーンの練習という行為が、お互いの新しい一面を暴いていく。この引用だけで、二人の関係が一歩戻れない場所へ進んだことが伝わってくる。
そして、「初めて聞いた」と過去形で語っている点が重要だ。すでに彼の中で、その声は記憶として刻まれている。反芻するたびに、感情が育っていく。この一文から始まる連鎖を思うと、続きが気になって仕方ない。
