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すれ違う幼馴染の、再起動の瞬間
本作は、幼い頃は無邪気に遊んでいた五木遥と雪守悟が、悟の放った「いらない」という一言を境に、競い合い喧嘩ばかりの関係へと変貌してしまう物語だ。しかし、冒頭の一文が示す通り、二人はある日、生まれて初めてのセックスを経験する。その相手がよりによって「男」で「幼馴染」であるという点が、この作品の根幹を揺るがす構造的な仕掛けになっている。
遥は変わらずあの頃に戻りたいと願い、悟に対して優しく接しようと試みるが、その思いは空回りするばかり。一方の悟は、なぜ「いらない」と言ったのか、そして今なぜ遥と身体を重ねたのか――その行動原理の裏には、きっと複雑な感情の伏線が張り巡らされているはずだ。タイトルの「どっちつかずシグナル」は、二人のすれ違い続ける心の信号を象徴しているのだろう。
学園という閉じた空間で繰り広げられる喧嘩と接近の反復は、まさに古典的な恋愛劇の構造を持ちながら、その発端があまりにも生々しい性的な体験である点がユニークだ。感情の高潮が行為に駆り立てるのではなく、行為が先に来てしまったことで、二人の関係性はさらに混迷を極める。この逆転した因果関係こそ、本作の最も興味深い文学的要素と言える。
互いに翻弄される、二人の心の焦点
五木遥は、見た目はイケメンながら、心の奥では幼い頃の純粋な繋がりを取り戻そうと必死にもがくキャラクターだ。彼の行動は、時に優しく、時に空回りし、その態度が悟をさらに苛立たせる。彼の「あの頃に戻りたい」という願望は、単なるノスタルジーではなく、関係性の根本的な回復を目指す真摯な希求である。
対する雪守悟は「素直になれない美形」とされ、そのツンデレな態度が物語に緊張感を与えている。彼が遥に放った「いらない」という言葉は、本当に遥を拒絶したかったのか、それとは逆の感情を隠すための隠蔽工作だったのか。おそらく後者であろうと推測するが、その真意は読者の想像を超えるかもしれない。
二人の喧嘩は、単なる衝突ではなく、互いへの過剰な関心の裏返しとして機能している。学園生活という日常の中で、かつてのように無邪気に笑い合えなくなった焦りと悔しさが、喧嘩という形で発散されているのだ。そして、生まれて初めてのセックスという経験が、その均衡をいっそう危うくさせる。特に童貞同士の初めての行為が、相手が幼馴染であるという事実は、今後の関係性の変化を予感させる重い伏線として機能している。
心に刺さった一文――すべてを覆す言葉
ただ問題は、相手が「男」で「幼馴染」であることだけは――
この冒頭の一文は、物語全体のトーンを決定づけると同時に、読者に強烈なコントラストを印象づける。「死ぬほど気持ちよかった」という誇張にも近い肯定と、「ただ問題は」という留保の挿入。この二つの文のあいだに、遥の複雑な心情が凝縮されている。
行為そのものへの純粋な快感と、その相手が「男」で「幼馴染」であるという社会的・個人的な障壁。この矛盾を抱えたまま、物語は始まる。初体験の快楽が、これから二人の関係性をどのように変容させるのか――あるいは逆に、さらに深い誤解を生むのか。この一文は、読者に「なぜ二人はセックスをしたのか」「その後の関係はどうなるのか」という問いを投げかけ、ページをめくる手を止めさせない引力を持つ。
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