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▶ 『渇いた淵に雨乞いをしに行った私を淵の主の河伯が『水の礼だ』と冷たい鱗の腕で底へ引き込み、息が続かぬまま孕むまで奥へ注ぎ込んできた話・一話〜』の試し読み・お得なセール状況をチェック!
呼吸の限りがそのまま刻限になる、究極の焦らし構造
干上がった淵の底に降りて雨乞いの綱を張る役目を負った、水番役の家の末娘・雨宮せり(20)。泥の匂いのする底で綱を結び終えたとき、わずかに残った水がひとりでに盛り上がり、青灰の鱗を持つものが立ち上がる。それが淵の主・河伯だった。「雨が欲しいなら礼を寄越せ」と言われ、何を差し出せばいいのかと訊いたせりに、河伯は否と申せば還すと一度だけ問いかける。せりは自分の言葉でうなずいた——。
ここからがすごい。冷たい鱗の腕に抱えられて底へ沈むと、そこには沈んだ石灯籠の並ぶ水の宮があった。そして「息が続くのは水面へ戻されるまでのあいだだけで、呼吸の限りがそのまま刻限になる」という構成。限りが来るたび引き上げられ、また沈められ、そのたびに続きは前より深いところから始まるんです。
しかも地上では約束どおり雨が降り出し、淵の水位は日ごとに上がっていく。水が満ちるほど、せりが浮かび上がるまでの距離は遠くなっていく——この対比がもう、胸が苦しいほど切なくて。救われる村と、遠ざかる地上。彼女は自分の選択で沈んでいったのに、戻る道がどんどん遠くなっていくんですよ。
人と、人ならざるもの——河伯の冷たい質感に溶けそう
視点人物の雨宮せりは20歳。代々淵の水を見る水番役の家の末娘で、「役目に慣れすぎていて、自分の生死を勘定に入れない癖がある」という設定。この子、危ういな…。自分の安全よりも役目を優先するタイプの、健気というより達観した感じがたまらない。
そして攻めの河伯。人の姿では長身の男に見えるけれど、首筋と腕に青灰の鱗、指のあいだに水掻き、髪は水草のように濡れている。体温はひどく低い。この「冷たさで押し切る人外の質感描写」が読みどころとして挙げられているんですが、もう想像するだけでぞくぞくします。人間の体温じゃないんだなって、触れた瞬間にわかる冷たさ。でもその冷たい腕に抱きしめられるって、どう考えても溺愛でしかない。
河伯は「礼と理を何より重んじる」存在。一度だけ「否と申せば還す」と問いかける律儀さもありつつ、うなずいたら容赦なく沈めていく。この「一度だけ問う」というのが、なんとも執着攻めの香りがするんですよね。選択させたうえで、選んだら逃がさない。水の宮で繰り返される、呼吸の限りを刻まれるような時間。
そして雨が降るほど水位が上がり、水面までの距離が伸びていく。彼女が沈んでいくほど村は潤う。その構造自体がもう、彼女が河伯に深く繋がれていくことの比喩みたいで、甘くて苦しい。
「水の礼だ」——この一言だけで掴まれて離さない
この冒頭の一文が、すべてを語っている。干上がった淵の底で、残り水がひとりでに盛り上がる——枯れ果てた場所に、命の気配が立ち現れる瞬間。そして「水の礼だ」という河伯の言葉。雨乞いの綱を張ったせりに対して、雨を与える代わりに「礼」を求める。その礼が何なのかは、あらすじを読めば想像がつく。彼女自身の身体であり、呼吸であり、すべて。
「礼」という言葉の冷たさと、その奥にある執着。河伯にとってこれは理にかなった取引なのかもしれない。でも読者には、渇いた淵に降り立った少女を底へ引き込むための、甘美な口実にしか見えない。この一文を読んだ瞬間に、「ああ、この物語は溺れる話なんだ」と理解させられる。しかも読者も一緒に、底へ沈んでいくような感覚になる。
水が満ちるほどに地上から遠ざかっていくせり。村は救われて、彼女だけが深みへ。この「救われる村と遠ざかる地上の対比」が、切なさと甘さを同時に届けてくる。ハッピーエンドが好きなわたしとしては、水の宮に沈んだ先にどんな結末が待っているのか、もう気になって仕方ない。河伯の冷たい鱗の腕が、彼女をどこまで深く連れていくのか。呼吸の限りを刻みながら、2人がどんな関係になっていくのか。全16章、約4.0万字で体験版も読めるというので、まずは第1章から第3章を読んで確かめたくなりました。これはもう、沼るしかない。
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