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水底に沈んだ社で紡がれる、絶望の甘さを湛えた人外溺愛譚
三年続いた旱魃に苦しむ山あいの村で、古い掟に従い雨乞いの供物に選ばれたのは、身寄りのない十九歳の娘・穂波。白い衣を着せられ、石を抱かされ、堰の底へ沈められた彼女を救ったのは、水底に沈んだ古い社の主である龍神でした。
「捧げられた以上、お前は我のものだ」。人の理の外にある水の宮で、穂波は龍神の贄として囲われていきます。呼吸すら彼が分け与えるものになり、鱗の生えた指と、人のものではない熱に、内側から作り替えられていく。恐ろしいのに、離れがたい。この相反する感情が、物語を一層甘く、危険に香らせています。
地上では約束どおり雨が降り続け、村は救われた。けれど誰も穂波を迎えに来ない。忘れられていく代わりに、この神だけが千年の飢えでわたしを覚えている――。救済と絶望が同居する世界観は、読み終えた後にじわりと胸に沁みる余韻を残します。
キャラクターの魅力と関係性
視点人物である穂波は、身寄りをなくし村外れで暮らしていた十九歳。諦め癖があるけれど、龍神に囲われるうちに生への執着を思い出していく。悲壮感だけに寄りかからない、まっすぐなまなざしが印象的です。
一方の龍神は、水底の社に千年棲む人ならざるもの。人の姿を取るときは長身の青年に見えますが、腕と背に鱗、瞳は縦に裂けている。人の情を知らず、覚えたてのそれで加減を誤るという不器用さが、傍迷惑でいて愛おしい。
このふたりの関係性の核は、「呼吸すら相手からしか得られない」という圧倒的な依存構造。逃げ場が世界ごと存在しない水底で、鱗の生えた指と人ならざる熱によって内側から作り替えられていく感覚。体格差と人外の質感が、読んでいるこちらの想像力をどこまでも掻き立てます。
村に忘れられていく孤独と、千年ひとりだった神の飢え。ふたりの欠けていた部分が重なり合うとき、そこにあるのは征服ではなく、共鳴にも似た甘い依存です。純愛と呼ぶにはあまりに歪で、けれど確かに愛と呼びたくなる。そんな関係性が堪りません。
忘れられゆく存在を、千年の飢えで覚えている
この一文には、この物語のすべてが詰まっていると言っても過言ではありません。村のために供物となり、沈められた穂波。約束どおり雨は降り、村は救われたのに、誰も彼女を迎えに来ない。捧げた人間たちはもう彼女のことを思い出そうともしないのです。
けれど、この神だけは違う。「千年の飢えでわたしを覚えている」。この表現のなんと美しいことか。千年の孤独という飢えは、穂波というひとりの娘を丸ごと愛おしむ渇きへと変わりました。忘れられていく代わりに、世界でたったひとりだけが、彼女の存在を身体の奥で覚え続けている。
村人たちに忘れられる苦しさと、龍神に覚えてもらえる喜び。ふたつの感情が同時に押し寄せるからこそ、この関係性に私たちは眩暈のような切なさを覚えてしまうのでしょう。犠牲と救済、忘却と記憶。全ての濃度が異様に高い、まさに心臓を掴まれる一文です。
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