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氷の男が記録簿に刻む、歪んだ愛の軌跡
「これは儀式です」という一文から始まる本作は、聖女に選ばれたパン屋の娘と「氷の神官」と呼ばれる男の物語だ。穢れを祓う唯一の方法が、神官が聖女の体に聖力を注ぐこと。月に一度の儀式が、翌月には二度、その次は三度、四度と増えていく展開は、規則的な記録という無機質な手段を通じて、彼の感情の変化が克明に浮かび上がってくる。
特に興味深いのは、彼が几帳面な字で「必要量が増えています」と記録簿に書き込む描写だ。三百年分の記録簿を遡れば、先代も先々代も全員が月に一度だった。なのに、彼女だけが四度。数字という客観的事実が、彼の自制心の限界を雄弁に物語っている。ここに萌えるのが、大人のTL読者の鑑というものでしょう。
真面目すぎる男の、不器用で誠実な執着
氷の神官と呼ばれる彼は、冒頭で「私は、あなたに情を持ちません。持ってはならない決まりです」と宣言する。けれどその後の行動が、まったく言葉と一致していないのが本作の醍醐味だ。確認の言葉が七回から二回に減り、手順書にないことが増えていく。彼は決して甘い言葉を紡ぐわけではなく、あくまで「必要量」という建前の内側で、少しずつ彼女への情を滲ませていく。
そして、その正直な記録が原因で教皇庁から解任通達が届く。自らの手で招いた危機に、彼女が「三百年動かなかった条文を引っぱり出す」という展開は痛快だ。パン屋育ちの平民聖女が、氷の男のために法を動かす。守られるだけだった彼女が、今度は彼を守る側に立つ構図が、この物語の大きな見どころと言える。
Q. なぜ彼は記録簿に正直に数字を書き続けたのか?
A. 彼は「知っていることと、言えることは、違う」と語っており、儀式の回数が増えている事実を認識していながら、それを言葉にすることはできない立場にあった。しかし記録簿には正直に書き続けた。結果的にその記録が解任通達の根拠となるため、彼は自らの正直さが招いた結末を受け入れる覚悟で書き続けていたことになる。
Q. 聖女が条文を引っぱり出す目的は?
A. あらすじによれば、教皇庁から彼の解任通達が届いた後、聖女が三百年動かなかった条文を引っぱり出すとされている。彼が解任されれば聖女は別の神官に引き渡されることになるため、彼女はその流れを止めるために行動を起こしたと読める。パン屋育ちの平民聖女が、制度そのものに切り込む展開が示唆されている。
Q. タイトルの「穢せない」とはどういう意味か?
A. 表向きは氷の神官が聖女を「穢す」ことができない、つまり情愛を持たないように振る舞っていることを指す。しかし実際には、彼は聖女への情を抑えきれず、儀式の回数を増やしている。タイトルは彼の自制心の限界と、それでも「情愛の行為だと考えてはいけない」と言い聞かせている姿を象徴的に表している。
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