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「推奨」された性が日常に溶ける、倒錯的な世界観の引力
本作の土台にあるのは、性的なことに潔癖になりすぎた結果、人口減少と国力低下を招いたという逆説的な歴史だ。その反動で、セックスが「日の下であけっぴろげに話題に出すもの」へと変貌した世界。この設定一つで、登場人物たちの価値観や距離感がすべて再定義されている点が、まず興味深い。
主人公・巽リョウは、そんな世界に転生してしまった前世持ちの高校生。彼が「やむにやまれぬ事情」で性的なバイトを始め、同級生から教師、大企業の社長に至るまで、さまざまな相手と関係を持つ。あらすじだけ見れば奔放な物語だが、むしろ注目すべきは、この世界の「性が日常化した空気」が、彼の内心や人間関係にどのような歪みや本音を生むのかという点だろう。
「男は性欲的に、女は淫らに」という価値観が当然とされる世界で、前世の記憶を持つリョウは何を思うのか。彼の「貞操観念」のズレが、むしろ物語のユーモアや切なさを生み出しているように感じる。一話完結の連作短編という形式も、この特殊な世界観を少しずつ味わうのに適している。
総攻めのプロと、レギュラー落ちした男前。関係性の始まりが絶妙
登場人物は、セックスの腕がかなり良く男女問わずモテる主人公・巽リョウと、背は低めの男前で、レギュラー落ちで意気消沈している野球部のセンパイ・瀬尾達馬。この二人の出会いが、「……慰めてほしい」という達馬の一言から始まるというのが、もう堪らない。
達馬は「レギュラー落ち」という挫折を抱えている。その心の隙間に、リョウの「体で慰める」という行為がどう作用するのか。単なる肉体関係ではなく、傷ついたプライドや、誰にも言えない悔しさが、身体的な親密さによってどう癒やされ、あるいはどう絡み合っていくのか。その過程が、本作の読みどころだと感じる。
リョウが「セックスの腕はかなりいい」というのは、あらすじ上では事実として語られている。しかし、その技術が達馬の心にどう届くのかは、まだ未知数だ。主人公攻めで逆転なしという構成も、この二人の力関係がどう構築されていくのか、期待を膨らませる要素になっている。
「慰めてほしい」という一言に込められた、すべての事情
この一文は、達馬というキャラクターの全てを物語っている。レギュラー落ちという挫折が、彼の自信や日常をどれほど揺るがしたのか。その結果として漏れ出た「慰めてほしい」という言葉には、競技への悔しさ、周囲への申し訳なさ、そして誰かに頼りたいという素直な願いが混在している。
「うっかり」という語が、彼が本心を隠し続けてきた性格を暗示しているようで、胸が締め付けられる。男前であるがゆえに、弱音を吐けなかった達馬が、リョウという「セックスが推奨される世界」の住人にだけ見せた本音。その瞬間に、二人の関係性の基盤が築かれたのだろう。
この一言があるからこそ、以降の身体的な親密さが、単なる快楽のためではなく「慰め」として機能していく。心理的な空虚を、身体的な満たしがどう埋めていくのか。その繊細な過程が、本作の核心として読者の心に残るのではないか。
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