📝 DMM.com BL小説
▶ 『色悪作家と校正者の歳時記』の試し読み・お得なセール状況をチェック!
西荻窪の歳時記が描く、日常の温度と関係性の揺らぎ
本作は、西荻窪を舞台にした人気シリーズの新刊です。あらすじで示されるのは、まず「大吾が怪我をした」という小さな事件。しかしそれが思いの外、彼を意気消沈させ、正祐を苛立たせるという。怪我そのものよりも、その後の二人の反応のずれが物語の焦点になっていることがうかがえます。
さらに、職場でいつものようにこぼした愚痴に対して篠田がとった行動が、物語を動かす鍵として提示されています。愚痴という日常のささやかな発露が、誰かの行動を引き出す。この連鎖の描き方が、シリーズの持ち味である日常と人生の機微を担っているのでしょう。
収録作には『二〇二六 小暑と大暑の小さな事件』のほか、白州英知とその秘書であり恋人・藤原四郎のある日の午後を描く『代議士白州英知と公設秘書藤原四郎で、海へ』が含まれます。美味しいものと人生を語る書物という要素も添えられ、歳時記というタイトルが示す通り、季節と食と人とが重なり合う構成が予想されます。
怪我が引き出す、二人の反応の非対称性
大吾の怪我が彼を意気消沈させ、正祐を苛立たせるという構図は、単純な心配や同情ではありません。むしろ、同じ出来事に対して一方は沈み、他方は苛立つという反応の非対称性が描かれています。このずれは、二人が互いをどう見ているか、どこに感情の拠り所を置いているかの違いを浮かび上がらせる装置になり得ます。
また、正祐の苛立ちが大吾の沈み込みに対するものなのか、それとも自分の無力さに対するものなのか。あらすじの範囲では断定できませんが、少なくとも「思いの外」という一言が、予想外の深度で二人の関係に触れていることを示唆します。日常の中の小さな事件が、関係の輪郭をあらためて照らす。そういう構造を感じさせる導入です。
愚痴と行動、篠田という触媒
職場でついとこぼした愚痴に、篠田がとった行動。この「ついとこぼした」という表現が重要です。意図して伝えたのではなく、漏れ出てしまった言葉。その受け取り方と、受け取った側の動き方に、その人物の性格と関係性の質が現れます。篠田がどのような行動を選ぶのかはあらすじでは明かされていませんが、愚痴を単なる聞き流しで終わらせない人物であることは確かでしょう。
愚痴というのは、しばしば本音の裏返しです。それを拾い上げて行動に移すというのは、相手の内面に対して能動的に関わろうとする姿勢の表れです。篠田の行動が物語の転換点になるという構成は、日常描写の中に伏線を織り込み、さりげない一言が後半で効いてくるタイプの物語を予感させます。
海へ向かう午後、恋人同士の距離
収録作の一つ『代議士白州英知と公設秘書藤原四郎で、海へ』は、夏休みもなく働く白州英知と、その秘書であり恋人である藤原四郎のある日の午後を描きます。職業上の主従関係と、恋人という私的な関係が同一線上にある二人。その二重性が、海へという非日常の場でどう揺れるのかが見どころになります。
「夏休みもなく働く」という記述からは、多忙ゆえに日常が侵食されている状況がうかがえます。そんな中で訪れる海への午後は、仕事から切り離された時間であると同時に、恋人としての関係が試される時間でもあるでしょう。公設秘書という立場が、私的な感情にどう干渉するのか。あらすじ以上の展開は不明ですが、主従と恋愛が重なる構造そのものが、この収録作の緊張感を形作っています。





