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風穴を守る女と、風の神のあいだで交わされる「代」の話
本作は、山の中腹にある風穴で蚕の種を預かる犬童あぐり(28歳)と、岩の裂け目を通って山の息を吐いてきた風の神・息長を描く和風あやかしのTL小説です。あぐりは灯りを入れない暗がりで掌を石の隙間にかざし、風の冷えと強さを読み、箱の重さで紙の湿りを判じる風穴番。目よりも手触りで世界を測ってきた女性です。そんな彼女の仕事場で、ある晩ふいに風が止まります。棚の奥へ差し入れた手が触れたのは、人の胸の冷たさでした。
物語の軸になるのは、塞がれた風の通り道をめぐって神が差し出す二つの選択です。種箱を残らず里へ下ろして今年の蚕を諦めるか、風が通り直すまで自分の身を風の通り道に貸すか。代の払い方を先に並べるのは神の側で、身を差し出すと告げるのはあぐりの側。この順番が、二人の関係の重心をそのまま示しています。
手で覚えていく積み重ねと、身を差し出すと告げるまで
あぐりは棚を一つずつ外しながら、手で神を知っていきます。冷えの強いところ、重みのかかるところ、触れると風が向きを変えるところ。暗がりで目を使わず、冷え・重さ・湿りという手の感覚だけを頼りに距離を詰めていく過程が、この作品の前半を支えています。風を読むための掌の所作が、そのまま神の体を読む行為へと重なっていく構成です。
そして夏が近づいたころ、あぐりは自分から神へ身を差し出すと告げます。神に言われてではなく、彼女自身の言葉で。点火は第十三章と案内されており、それまでの章は手触りと気配の積み重ねに割かれています。到達点の直後には、まず風穴の風の向きが変わる描写が置かれ、人物へ戻るのはそのあとという運びも特徴的です。
朝には神のほうが先に退く、という約束
小屋の戸に閂はないこと、朝の風が戻る刻には神のほうが先に裂け目へ退くことが、あらすじで明かされています。人ならざるものが相手でも、去り際の主導権は神の側にある。冷えの強い痩身、人の齢に直せば三十の終わりほどの男の姿、肩から先の長い腕。触れたところから冷えが入り、身じろぐと風が向きを変えるという設定が、そのまま二人の距離の測り方になっています。
和風あやかし、ヒロイン一人称、人外もの。あぐりの視点で、暗がりの手触りと風の気配が淡々と綴られる構成です。全16章・約3.9〜4.2万字で、体験版では第1章から第3章まで読めます。挿絵なしの縦組みPDF、連作の第一話として刊行されています。R18作品のため、18歳未満の閲覧はご遠慮ください。登場人物はすべて二十歳以上で、代の形は本人が選んでいます。
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