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推し活という名の、「初恋」の保存方法
本作の表層は、地元で町工場を継いだ関戸周が、芸能界に入った元同級生・一条順への片想いを拗らせ続ける物語だ。卒業と同時に疎遠になった相手を、テレビ越しに「推し」として追いかけ続ける。これは単なる追憶ではない。
周は順に似た男とばかり恋愛を重ねてきたという。つまり彼は「順」という不在を、似て非なる他者で補填し続けてきたわけだ。似ているからこそ、代わりにはなれない。その矛盾を抱えながら、今は「春の陽だまりのような穏やかな愛」を望むと同時に、誰かと人生を共にすることを諦め、一人で生きていく覚悟も決めている。
この「穏やかな愛への渇望」と「孤独の受容」という二律背反が、まず構造的に美しい。そして傍らにいるのが、寿命80年ともいわれるケヅメリクガメのジュン。今の周にとっての「陽だまり」が、まさか亀だというのが、もう堪らない。
「似た人」との恋愛と、「本人」との再会
キャラクターで注目すべきは、まず周の「行動原理の一貫性」だ。順に似た男としか恋愛できない。これは執着とも解釈できるが、むしろ「順」という理想を壊さないための安全策にも見える。似ている相手なら、本当の順ではないから、傷ついても本質は壊れない。しかし「イケメンとの恋には良い思い出がなく」という記述が、その安全策すらも彼を満たさなかったことを示している。
一方の順は、高校時代にスカウトされ、卒業と同時に芸能界入りした「学内でも目立つ」存在。そんな彼が、地元の町工場の前に突然現れる。芸能界で生きる人間が、なぜ今、ここに。あらすじだけでは動機は不明だが、周が「推し活」という形で一方的に関係を保ち続けていたことを考えれば、その再会には何かしらの必然性を感じずにはいられない。
そして忘れてはならないのが、ケヅメリクガメのジュンだ。周が順に似た男との恋愛に失敗し、孤独を選び、静かな愛を求めた先にいた存在。この亀が、物語にどう絡んでくるのか。名前の一致が、偶然であるはずがない。
「陽だまり」という言葉が刺さる理由
この一文は、実に残酷で、そして優しい。周は「春の陽だまりのような穏やかな愛」を望んでいると明言されている。つまり彼にとっての理想の愛は「陽だまり」なのだ。しかし現実に彼の傍らにある「陽だまり」は、人間ではなく亀なのである。
人に求めることを諦めた結果、彼は亀を陽だまりと呼ぶことにした。これはある種の諦念の結晶であり、同時に彼なりの再生でもある。誰かを愛することで傷つくくらいなら、静かに寄り添ってくれる亀と生きていく。その選択は、一見すると後ろ向きに見えて、実は非常に能動的な「生きるための決断」だ。
だからこそ、そんな彼の前に順が現れたとき、この「陽だまり」の定義が揺らぐ。順との再会が、彼の築いた静かな世界をどう変えるのか。この一文が持つ意味が、物語が進むにつれて反転していく予感がしてならない。
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