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五年越しの片思いが、薄い壁の向こうで声を殺して実る夜
営業推進部五年目の高瀬いずみは、入社研修の日から同期の三上慧を好きでした。要領が悪く断るのも下手で、社員旅行の宴会もカラオケも本当は苦手。それでも今年だけは少し楽しみにしていました。幹事が三上だったからです。部屋割りの手違いで二人は相部屋になり、旅館は満室で動かせません。壁は薄く、隣の笑い声が全部聞こえてきます。
お酒は一滴も飲んでいませんでした。いずみは下戸で、宴会でもずっとウーロン茶だったのです。だからこれは勢いではない。自分から袖を掴んで告げました。「わたし、三上のことが、ずっと好きだったと思う」。軽口の男が初めて黙り、五年分の答えが返ってきます。三上は何度も確認します。嫌になったら背中を二回叩けば全部やめると。彼女は頷いて、自分から浴衣の帯をほどきました。
浴衣は脱がされません。袖は最後まで通ったまま、帯だけがほどけて衿が開きます。その隙間から、敏感な蕾と熱の芯を同時に愛される。声を出せば襖の向こうに全部届く。掛布団を噛んで、手の甲を噛んで、それでも足りずに、自分から彼の手を取って口に押しつけました。「……口、塞いで」。
布団で、広縁の籐椅子で、夜明け前の窓ガラスに胸を押しつけられて。朝食は八時から。それまでに七回数えられて、三度奥に注がれます。やがて知るのです。缶のお茶も、仕事の半分も、飲み会で隣を取る速さも、全部この人が五年かけて積んだ口実だったと。朝焼けの広縁で、耳を赤くしたこの人が言います。「俺と、付き合ってください」。
Q. なぜ二人は相部屋になったのですか?
社員旅行の部屋割りの紙で手違いが見つかりました。幹事である三上慧の書き間違いで、二〇六号室がいずみと三上の二人になっていたのです。旅館は満室で部屋を動かせず、やむを得ず相部屋のまま夜を過ごすことになりました。お酒の勢いではなく、いずみが自らの口で想いを告げるきっかけになった出来事です。
Q. いずみはなぜお酒を飲まなかったのですか?
いずみは下戸で、宴会でもずっとウーロン茶を飲んでいました。社員旅行の夜も一滴もお酒を飲んでいません。だからこそ、三上への告白は勢いによるものではなく、五年間抱え続けた本心からの言葉だったと言えます。酔ったはずみではなく、自分の意志で選んだ夜だからこそ、朝まで続く時間にも誠実さが宿っているのでしょう。
Q. 三上はなぜ五年間、想いを伝えなかったのですか?
三上もまた、入社研修の日からいずみを見ていました。缶のお茶を持っていくのも、仕事を手伝うのも、飲み会で隣の席を取るのも、すべて彼女に話しかけるための口実でした。同期じゃなくなるのが怖くて、いずみから言われるまでは絶対に言わないと決めていたのです。二人の五年間は、互いを思うがゆえのすれ違いだったと言えるでしょう。
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