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禁足地に迷い込んだら、運命の天狗に捕まった
民俗学の調査で郷里に戻った23歳の早坂ゆきが、亡き祖父の遺した古い地図の空白に惹かれて山に入る。そこで出会うのは、山の禁足地を守る天狗。踏み込んだ者は返さないという古い理のもと、ゆきは夜通し翼に囲われて過ごすことになる。退路のない岩場の上で、抗うことも逃げることも封じられた状況に、恐怖とともに不思議な安堵が混ざり合う。恐ろしい存在なのに、ただ一人だけ自分を見ていてくれる感覚が、心の奥に沁みていくようだ。
「逃げれば崖、抗えば片手で組み敷かれる」という表現からもわかる通り、この作品の魅力は完全に逃げ場がないのに、それが不快じゃないところ。閉所ではないのに翼で外気ごと遮断される閉塞感が、むしろ二人だけの特別な世界を作り出している。祖父が遺した地図の空白の理由も、物語の縦糸としてじわじわと明かされていく構成になっていそうで、民俗学的な謎解きの要素も楽しめる。
和風あやかし・人外つがいTLというジャンルに、ヒロイン一人称の文体で約3.8万字。全16章の連作第一話として、体験版では第1章から第3章までが読める。執着攻めの天狗が、理を曲げないと言いながらゆきにだけ何度も理を曲げるという関係性は、もう読む前から確信できる。「人を返さない山」という設定も、祖父の地図の空白がどう繋がってくるのか、考察しながら読む楽しみがある。
好奇心が運命を引き寄せる、ヒロインと天狗の特別な関係
早坂ゆきは23歳の大学院生で、民俗学を専攻している。好奇心が警戒心に勝つという性格で、亡き祖父が遺した記録を追いかけている。この好奇心が、禁足地へ足を踏み入れるきっかけを作った。彼女の一人称で語られる物語は、読者も一緒に未知の世界へ足を踏み入れる感覚を味わえるはず。地図の空白に惹かれるというミステリアスな導入も、彼女の研究者としての興味と、人間としての直感が交差する部分が魅力的だ。
天狗は、山の禁足地を守る存在。人の姿では長身の男に見えるが、背には大きな黒い翼があり、目は赤い。このビジュアルだけで、もう体格差と人外感がたまらない。理を曲げないと言いながら、ゆきにだけは何度も理を曲げてしまうという描写は、彼がゆきに対して特別な感情を抱いていることを暗示している。翼で囲われて外気ごと遮断される感覚は、物理的な閉じ込めではなく、世界から切り離された特別な空間を作り出す。
「恐ろしいのに、この山でただ一人自分だけを見ている存在に、心のどこかが安堵している」というゆきの心情が、この関係性の核心をついている。敵であるはずの存在に、逆に安心を見出してしまう。この複雑な感情の揺れが、物語全体に甘い緊張感を与えている。祖父の地図の空白の理由が明かされていく過程で、二人の関係がどう変化していくのか。連作第一話ということで、今後の展開も気になるところだ。
「里には返さん」に込められた、運命の宣告
この冒頭の一文に、物語のすべてが詰まっている。風が鳴るという音の描写から始まり、黒い翼が月を塞ぐという視覚的なインパクト。読者の想像力を掻き立てる鮮烈なオープニングだ。「踏み込んではいけない場所に、わたしはもう膝をついていた」という一文からは、すでに逃げ場を失った状況が伝わってくる。
「里には返さん」という天狗の言葉は、単なる脅しではなく、運命の宣告のように響く。この言葉から始まる物語が、どのように展開していくのか。「返さん」という言い回しには、古い理に基づく強い意志と、ゆきへの特別な執着が感じられる。祖父の地図の空白がなぜ空白だったのか、その理由が明かされる時、この言葉の意味もまた深まっていくのだろう。
退路の完全な消失の中で、ゆきがどんな感情の変化を見せていくのか。「心のどこかが安堵している」という複雑な心情が、これからどう育っていくのか。人と人ならざるものの境界が、夜が明ける頃にはどう変わっているのか。この冒頭の一文が放つ引力に、読者はもう抗えない。
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